2026年01月30日
東日本大震災から15年、熊本地震から10年という節目を迎え、自治体の災害対策は大きな転換点にあります。
従来の運用だけでは限界を感じつつも、具体的に何から着手すべきか判断に迷っている担当者も少なくありません。
本記事では、2026年の制度対応を見据えた防災DXの必要性を整理して、
先進自治体の防災DX事例や予算獲得に向けた考え方、現場運用に落とし込むためのポイントを解説します。
現場の混乱を抑え、迅速かつ的確な意思決定につなげるための、実務者向けガイドとしてぜひご活用ください。

防災DXは自治体における、災害対応の在り方そのものを見直す取り組みとして位置づけられています。
近年は、デジタル庁による基幹業務システムの標準化や、庁内外のデータを横断的に活用するデータ連携基盤の整備が進められており、
自治体業務全体が従来の「縦割り」から「横連携」を前提とした構造へ移行しています。
防災分野も例外ではなく、部局や業務ごとに完結した運用のままでは、制度や基盤との整合を図ることが難しい現状にあります。
防災DXが求められる理由は以下の通りです。
これらを踏まえ、防災DXではどのような対応が求められるのかを整理していきましょう。
2026年度から本格運用されるデータ連携基盤により、外部機関との円滑な情報共有が不可欠です。
デジタル社会形成基本法に基づき、国・自治体・民間がシームレスに連携する社会構築が加速しています。
特に防災分野では、被害状況や避難所情報、ライフラインの復旧状況などを、他部局や関係機関と即座に共有できる形で管理しなければなりません。
もし紙資料や部局ごとに活用する個別のシステムに依存し続ければ、災害時に情報が滞り、支援の空白地帯を生むリスクもあります。
デジタル庁の指針に沿った「標準的なデータ構造」をあらかじめ整えると、情報集約の負担は大幅に軽減されます。
これは単なるデジタル化ではなく、将来の広域連携を見据えた重要な制度対応です。
早期に着手することで、有事の際に「収集した情報が分断され全体像が見えない」という致命的な事態を回避できるでしょう。
参照:デジタル庁|2.1 データ連携基盤の設計・構築
参照:デジタル庁|推奨データセット
参照:デジタル庁|地方公共団体の期間業務システムの統一・標準化
防災DXは多種多様な情報を地図上で視覚化し、現場の「情報の洪水」を整理することで、迅速な意思決定を支援する強力な武器になります。
災害対応の遅れは情報不足によって発生するのではなく、多すぎる情報が整理されないまま現場にあふれることで発生しがちです。
被害状況や避難所の稼働率、道路の寸断状況等を一元化した環境で確認できれば、関係者間の認識のズレは最小限に抑えられます。
実際にデジタル庁が実施した防災DX導入の実証実験(マイナンバーカードを用いた入所手続き)により定期報告業務の50.7%が削減という具体的な成果が確認されました。
職員の約90%が「意思決定の効率化に有益」と回答しており、その実効性は極めて高いといえます。
参照:デジタル庁|デジタル庁における防災DXの取組についてP30
集計や報告といった作業時間を削ることは、そのまま「住民の命を守るための判断」に充てる時間を創出します。
口頭説明や資料の持ち回りに頼る運用から脱却し、最新データを武器にした迅速な本部運営を実現しましょう。
防災DXは避難所受付の簡素化などを通じて、市民が行政の対応力向上を最も身近に実感できる領域です。
2025年度までに進められてきた基幹システムの標準化が一段落した今、自治体に次に求められているのは「市民サービスの質の向上」です。
災害という非常事態においては、情報発信の速さや窓口対応のスムーズさが、行政に対する信頼度を大きく左右します。
例えば、避難所受付をデジタル化すれば、現場職員の負荷を減らすだけでなく、避難者の待ち時間を短縮し安心感を与えられます。
内部業務の効率化に留まらず、住民が直接利用する窓口やサービスの利便性を高められる点は、自治体にとって重要な成果です。
標準化対応を一つのきっかけとして、防災分野でのデジタル活用を推進することは、
住民に「行政が変わった」という実感を届けるための効果的なアクションといえるでしょう。

防災DXの本質は「現状の正確な把握」であり、成果を上げる自治体に共通するのは、情報の収集・整理・共有をデジタルで徹底している点です。
専用システムをゼロから構築するのではなく、既存インフラや汎用デバイスを日常の延長で活用するのが最新のトレンドといえます。
ここでは実際の災害対応や訓練で成果を上げた、以下の4つの先進的な取り組みを具体的に紹介します。
これらの事例から、自分の自治体でも応用できるヒントを見つけ出していきましょう。
令和6年能登半島地震では、交通系ICカード「Suica」を導入し、被災者の動態を迅速にデータ化しました。
当初はマイナンバーカードの活用が検討されましたが、被災現場における専用カードリーダーの即時調達は困難であると判断。
そこで、普及率が高く即時活用可能なSuicaを「防災Suica」として配布・運用する方針へと転換しました。
避難所にリーダーを設置し、入退館時にタッチする仕組みを構築。
配布されたカードIDと避難者情報を紐付けることで、広域移動や物資配布の履歴をリアルタイムに集約・管理しました。
専用システムを一から開発せず、既存の社会インフラを防災に転用した点は極めて合理的といえます。
この柔軟な対応は、スピードが求められる災害初動において、低コストかつ確実なデータ収集を可能にする防災DXの重要な指針となるでしょう。
参照:デジタル庁|デジタル庁における防災DXの取組についてP40
マイナンバーカードを避難所受付に活用し、手書き名簿の作成や入力作業という職員の重荷を大幅に解消した実証例があります。
避難所運営において、受付業務は職員の負担が最も集中し、ミスも許されない過酷な工程です。
デジタル庁と連携した神奈川県(小田原市など)の実証実験では、
カードを端末にかざすだけで受付が完了する仕組みを検証し、手書きと比較して入所手続き時間を約9割(90.2%)削減に成功しました。
これにより職員は、名前の書き取りやその後のシステムへの転記作業から解放されるため、
体調不良者への対応や物資の管理など、避難者のケアに関わる「本来優先すべき対人業務」にリソースを割けます。
避難者にとっても、雨風の中での行列待ちや手続きのストレスを軽減できるだけでなく、自身の薬剤情報を正確に医療班へ伝えられるなど、安心感の向上につながります。
混乱しがちな現場の受付構造をデジタルで再構築することは、職員の業務効率と市民満足度の向上を同時に叶える、現実的な防災DXのポイントといえるでしょう。
参照:デジタル庁ニュース|所要時間を9割削減 実証実験でわかった 防災×デジタルの手応え
静岡市上下水道局では、2022年9月の台風第15号で起きた興津川取水口の被災による断水の経験をきっかけに、MAXHUB「All in One Meeting Board」を導入しました。
当時は、現場の職員が電話などで報告を行っていましたが、庁舎側の大人数の職員の間で情報共有が十分でなく、
同じような質問が繰り返されるなどして、現場がパンク状態になってしまった点が大きな反省点でした。
また災害時には情報量が多すぎて、PC画面では状況を把握しきれない状況のため、
既存の防災用システムや現場から送られる情報を、大画面のミーティングボードに映し出して共有する運用を開始。
これにより、全員が同じ地図や現場写真を大画面で見ながら方針を決定できるようになり、情報の行き違いが解消されました。
遠隔地とのWEB会議でも資料が見やすくなったことで、各施設から庁舎への移動時間の削減に成功しています。
能登半島豪雨の応援派遣の際にも、遠隔地からの後方支援や引継ぎ業務の効率化に役立てられた好例といえるでしょう。
導入事例:ナイスモバイル|静岡市上下水道局様
大阪市港区役所は、災害対策の高度化と業務DXを推進するため、MAXHUB「All in One Meeting Board」を導入しました。
その理由は、水害リスクの高い地域でありながら、従来の訓練では模造紙に情報を書き出すなどアナログな手法に依存しており、
迅速な意思決定やノウハウの蓄積が困難だったためです。
導入後は、現場から写真での即時報告が可能になったほか、庁舎内の5階(情報収集)と6階(本部)をホワイトボード共有機能で接続し、
音声と画面を通じたスムーズな指揮連携を実現しました。
研修での多拠点接続による費用対効果の高さや、スマホ感覚で誰でも扱える操作性が、公金利用における選定の決め手となりました。
場所の制約をデジタルの力で無効化したこの事例は、組織の連携力と判断スピードを高めた実務的なDXのモデルケースといえます。
導入事例:ナイスモバイル|大阪市港区役所様

防災DXの障壁は、技術面よりも「予算・効果の証明・現場定着」といった組織運営の課題に集約されます。
多くの自治体担当者が施策の必要性を認識しつつも、庁内における合意形成の難しさに苦慮しており、単独の防災施策では優先順位を上げにくい実態があります。
課題を打開するには、防災DXを日常業務や全庁的なDX戦略の一部として位置づける工夫が不可欠です。
本章では、先進自治体の知見に基づいた再現性の高い3つの解決策を提示します。
これらの手法により、計画の具体化や庁内調整の迅速化が期待できるでしょう。
デジタル田園都市国家構想交付金(以下、デジ田交付金)の活用により、防災DXを国の方針と連動した全庁的な施策として位置づけることが、予算確保の確実な手段です。
一般財源による新規投資は財政部門の審査が厳しく、調整に多大な時間を要するケースが多いです。
そのため、デジタル庁が推奨するモデル仕様等に沿った計画を策定し、同交付金の活用が現実的な選択肢といえます。
参照:内閣官房・内閣府|デジタル田園都市国家構想交付金
参照:内閣官房・内閣府|デジタル田園都市国家構想交付金(デジタル実装タイプ)Q&A集
デジ田交付金を利用すれば、国の指針に準拠したデジタル基盤整備という大義名分が得られるため、
首長や財政担当者に対し、国策と連動した必要投資として説得力ある提示が可能です。
さらに、他自治体の採択事例をエビデンスとすると、財政課の懸念も払拭しやすいです。
参照:デジタル田園都市国家構想交付金デジタル実装タイプ(TYPE2/3)の採択事例
防災DXを全庁的なデジタル化の契機と明確に位置づけることが、予算獲得の突破口といえるでしょう。
平時と有事の区別をなくす「フェーズフリー」の概念は、防災DXの費用対効果を最大化するポイントです。
年に数回しか稼働しない非常用専用設備への高額投資は財政部門の承認を得にくい傾向にありますが、
日常業務で常用するデバイスを災害時に転用する設計であれば、その壁を乗り越えやすいです。
具体的には以下の事例が挙げられます。
このように投資効果を特定の防災分野に限定せず、「全庁的な業務改善・資産活用コスト」として分散して捉える視点が不可欠です。
平時の利便性向上と有事の備えを両立させることで、導入のハードルを下げ、費用対効果を向上させられます。
防災DXを現場に定着させるには、操作を覚える負担が少なく、従来の業務感覚に近いUI/UXを備えたデバイスの選定がポイントです。
新しい仕組みであっても、既存の運用を大きく変えずに使い始められれば、受け入れやすさにつながります。
災害対応の現場では、限られた時間と人員の中で迅速な判断と行動が求められます。
操作が複雑だったり、手順の多いログイン工程が必要だったりすると、それだけで運用上のリスクとなり、使われなくなる要因となりかねません。
そのため非常時ほど直感的に扱える操作性が重要で、現場で評価されやすいのは、模造紙やホワイトボードなどと親和性の高いデザインです。
新たなスキル習得を前提とせず、これまでの延長線上で扱えるUI/UXを重視すれば、特定の職員の意見に依存せず、組織全体で自然に活用される環境を整えやすいです。
防災DXを一部の担当者の取り組みに終わらせず、現場全体で機能する仕組みとして定着させることが、現場への浸透を促すといえるでしょう。

災害対応の現場では情報を集める行為そのものよりも、それらを全員で素早く正確に共有し、「同じ絵を見ている状態」を作ることが重要です。
小さな画面を個別に覗き込んだり、更新が追いつかない紙の地図に頼ったりする運用は、情報の整理に多くの時間を費やし、リーダーの決断を遅らせる原因になりがちです。
個人の読み取り能力に頼るのではなく、誰もが一目で状況を理解できる「見える化」を実現できれば、対策本部の機能を高められます。
ここでは、あふれる情報を整理してスムーズな意思決定を支えるための工夫と、それを実現するためのデバイス(道具)選びのポイントを解説します。
なお、災害対策本部の具体的な情報共有や運営方法については、「防災DXで進化する災害対策本部!情報共有を効率化する最新運営マニュアル」も併せてご参照ください。
災害時には多くの情報を大画面に一括表示し、迅速かつ立体的に状況を把握できる環境を整えることが、迅速な判断の基盤となります。
実際に災害発生時には、GIS(地理情報システム)による被害分布、気象警報、河川カメラ映像など、あらゆるチャンネルから情報が流入します。
これらを個別のPC画面で確認していては、情報の関連性を見落とす危険があるため、大画面ディスプレイによるマルチウィンドウ表示が理想です。
例えば、地図とSNSの通報内容、避難所の収容状況を並列して表示すれば、どの地域に人員を優先投入すべきかという判断根拠が瞬時に可視化されます。
以下は、推奨される具体的な「情報の役割」に応じた画面構成です。
| 情報カテゴリ | 表示の工夫 | 意思決定への効果 |
|---|---|---|
| GIS・ハザードマップ | 被害報告や道路の寸断状況をレイヤーとして重ねる | 危険エリアと避難ルートの不整合を空間的に把握できる |
| 現場・河川カメラ | 複数地点のライブ映像を同時にタイル表示する | 電話報告だけでは伝わらない現場の「緊迫度」を直感できる |
| SNS・住民通報 | AI解析した重要度の高い通報をサイドパネルに流す | 行政が把握できていない初期の被害や住民の困り事を拾える |
| 避難所・物資状況 | 収容率や在庫不足を色別(ヒートマップ)で表示する | 物資搬送や人員派遣の優先順位をデータに基づいて即断できる |
情報の切り替えや説明に費やす時間を省き、全員が同じ画面を参照しながら議論できる環境は、判断ミスを低減するための必須条件です。
対応スピードを最大化するためにも、情報の集約と視覚化を最優先で進めましょう。
MAXHUB「All in One Meeting Board」 は平時から有事までシームレスに活用でき、防災DXの中核を担います。
GISやカメラ映像など多角的な情報を1台で統合管理でき、有事の迅速な判断を支える拠点として機能することが特徴です。
大画面、タッチ操作、WEB会議機能を一台に集約。地図への直接書き込みや即時共有は、従来運用にはない大きな利点です。
平時は庁内会議のペーパーレス化や遠隔連絡、イベントや研修など幅広く活用できるため、
フェーズフリーなデバイスとしての導入意義が強まり、予算確保も容易になります。
従来のアナログ運用と比較した業務プロセスの変化は以下の通りです。
| 比較項目 | 従来の運用(紙・帳簿・個別PC) | MAXHUB「All in One Meeting Board」を活用した運用 |
|---|---|---|
| 情報収集・集約 | 電話やメールの内容を紙やホワイトボードに転記 | デジタルデータを自動集約し、大画面に即時表示 |
| 情報共有の速さ | 各自が資料や端末を確認するためタイムラグが発生 | 本部員全員が同一画面を同時に確認 |
| 現場状況の把握 | 口頭説明や文章による把握に依存 | 写真や映像を地図上に重ねて直感的に把握 |
| 指示・意思決定 | 認識合わせの説明に時間を要する | 視覚的に共有し、判断の精度と速度が向上 |
| 遠隔地との連携 | 電話・無線・個別PCでの連絡が中心 視覚情報の同期が困難 | WEB会議で離れた拠点とも大画面を見ながら連携可能 |
| 事後記録・連携 | 写真撮影や再入力が必要 | 画面上の情報をそのまま保存・共有可能 |
「誰でも簡単に使える」「平時から使える」「情報を一か所に集約できる」という条件を満たすデバイスを防災拠点に配置することは、運用改善を具体的な成果につなげる第一歩です。
自庁の本部配置や運用を想定しながら、こうしたデバイスをどこに配置すべきかを検討すれば、実践的な防災DXにつながるといえるでしょう。
防災DXの目的は、最新技術の導入ではなく、「災害時に必要な情報を正しく集約し、迅速かつ的確な判断を下すための強固な基盤」を築くことです。
東日本大震災以来、自治体や行政が過去の災害対応から得た貴重な知見をデジタルの力で底上げし、
一人でも多くの命を守れる体制へと昇華させる取り組みが求められています。
2026年度からのデータ連携基盤の本格運用は、単なる制度対応ではなく、現場の負担を減らし住民に安心を届けるための欠かせないステップです。
予算確保や現場定着といった高い壁に対しても、「デジ田交付金」の活用や「フェーズフリー」の視点を取り入れれば、行政全体の業務改善として道を切り拓けます。
自治体の規模に関わらず、まずは「本部全員が同じ絵を見て、迷いなく動ける環境」をいかに作るかという観点から始めましょう。
MAXHUB「All in One Meeting Board」のような直感的なデバイスの導入や、
小さな業務のデジタル化といった「スモールスタート」の積み重ねこそが、激しさを増す災害から地域を守り抜く「強い自治体」を形作っていくことにつながります。